カオスの縁「凍りついた死の世界と発散するカオスの世界」、「機会損失と過剰在庫」の間に存在するもの

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SCMの可能性を求めて

第2章複雑系メタファーで理解するサプライチェーンのダイナミックス

カオスの縁「凍りついた死の世界と発散するカオスの世界」、
「機会損失と過剰在庫」の間に存在するもの

サンタフェ研究所の研究テーマにクリス・ラングトンが提唱している人工生命論というのがあり、コンピュータ上でプログラムにメモリー空間を利用して自己増殖したり、CPU時間のコンピュータ資源を取り合うアリゴリズムを与えて生息する人工生命の研究がある。

この研究ではセル・オートマトンというコンピュータメモリー空間上の周辺環境によって変化するセルの遷移規則を調べて分類すると、凍りついたように全く変化が止まってしまう規則群、激しく動き回るが決して落ち着くことのないカオス状態になる規則群と、その稀な規則として複雑だが成長・分裂・合体する一貫性のある生命体にそっくりな遷移規則を作り出すものがあった。

物理現象で流体と固体とその間にある相転移の状態に相当する現象は、「カオスの縁」といわれている。この状態が一方では秩序過剰の状態に、他方ではカオス過剰の状態に陥る危険にさらされつつ、カオスの縁で必死にバランスを保とうとしている、生命の本質であると言われている。

図21

この状態こそが流動的で自然な「生物のような」振る舞いの本質であり、ボトムアップの自律的原則、中央の制御によらない創発的現象に依存しているらしい。考えてみれば、我々人間が知的で高度の行動ができるのは生命体の特徴である自律神経と中枢神経の組合せで設計されているからではないのか。
中枢神経のみで生命の制御系を設計することは不可能である。中枢神経が知らないところで思いがけない行動を人間は取っていると言える。

トヨタ生産システムを作った大野耐一氏は「気がついたらトヨタ式が出来ていた」といった。又、米国で多くの経営学者に理論的根拠を聞かれて、「神の啓示」だという答えたという。
本稿での複雑系のメタファーで理解するサプライチェーンの仕掛作りは、宗教的啓示を待とうと言うものではない。あくまでサイエンスの方法論にのっとり、モデルを構築する一般的な構築論を目指さなければならない。
サンタフェの複雑系の方法論は多くのノーベル賞級の学者が、科学の方法論として、コンピュータ・モデルをツールとして研究している。

さて、筆者はこの複雑系の方法論とサプライチェーンを関係つけて考えると、「需給のシンクロナイゼーション」は「カオスの縁」に存在する、極めて狭い領域に存在していると類推する。

シンクロナイゼーションが崩れるとたちまち過剰在庫(カオス)となるか、機会損失(凍りついた死)という生命的ではない状態にビジネスが陥ってしまう。我々はビジネスにおいて過剰在庫と機会損失の両サイドに存在するリスクが一般的である世界のなかで、非常に狭い「カオスの縁」にあるシンクロの世界に生残る場所が残されていると言えるのではないか。

好況・不況の循環や不良債権を発生させて金融機能の不能現象を引き起こしている金余り・金詰り・そしてその原因となった経済バブルなどの「カオスと凍りついた死」の両サイドの崖淵にすべり落ちている状態ではないか。
この異常状態から回復する手段は需要と供給が経済システムにおいてシンクロナイズすることで、資金の流れを早くするサプライチェーンマネジメントのメタファーが有効ではないかと考える。

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