ハイキングメタファーとTOC理論

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SCMの可能性を求めて

第2章複雑系メタファーで理解するサプライチェーンのダイナミックス

ハイキングメタファーとTOC理論

TOC(Theory Of Constraints)は制約というボトルネックのマネジメントとDBR(Drum-Buffer-Rope)のシンクロナイゼーションの2つからなるが、これはハイキングの行進のメタファーからモデル化されている。制約ベースのサプライチェーンマネジメントの理論的根拠になっているこのメタファーは、著差がゴールドラット氏の「ザ・ゴール」を引用して書いた「サプライチェーンマネジメント」に詳しく書いたがここで更に詳しく図解してみよう。

図13
図13に示すように一列縦隊で行進するハイキングの先頭を行進する少年アンデーは未踏の道を歩き後続する少年ベンが行進出来るように後ろに間隔を広げなければならない。

工場で最初の加工工程に資材を投入する為には、その上流行程として資材の購買納入が行われなければならない。少年アンデーと少年ベンの間の間隔距離は資材の在庫バッファーである。資材在庫がなければ最初の作業が開始できないのはアンデーが行進を開始しなければベンが最初の一歩を踏み出せないのと同じである。

続くチャック、デック、イバンスの後続する行進も、サプライチェーン上での後続工程の連鎖に相当する。最後のイバンスが通過して始めてハイキングチームの行進が進むように、サプライチェーンの供給業務の連鎖は最後の販売工程の製品の納入とそれに伴うキャッシュの入金があって始めて完了する。イバンスの前のアンデー、ベン、チャック、デックがどんなに行進スピードが速くてもその速度に変動があって間隔が詰まったり広がったりして後ろに行くほど先頭から最後尾のイバンスとの距離が拡大してしまう。ハイキングチームとしてはイバンが進まない限りハイキングチームの進捗はないのだ。
資材調達・生産スピードや工場からの配送スピードがいくら速くてもその速度がバラバラに変動するようであれば工程間の、仕掛在庫が増大したり材料・パーツ不足でアイドル(非稼働)になって資材調達によって資金が流出してから、製品を販売して資金が流入するまでのリードタイムは長くなって過剰な運転資金を要してしまう。

そこでハイキング行進のメタファーを使って、どのようにハイキングチームを監督したらハイキングチームの行進が早くなるかを思考実験する。ハイキングではなくてもワンダーフォーゲルでもかまわない。
その方法をサプライチェーンマネジメントに戻して見ることによってその効果を検証するのである。ハイキング行進では以下のような方針とルールを適用すれば確実に行進スピードは向上する。

1.ボトルネックを発見する。

先ず全体の速度はボトルネックとなる一番遅い少年が決定しているからそれが誰であるか認識する。ボトルネックとなる少年が10%は早くなればハイキングの行進も10%早くなり10%遅くなればハイキング全体の行進も10%遅くなる。

このボトルネック、又は制約(コンストレイント)を発見し、認識することが先ず第一歩である。サプライチェーン上でのボトルネックはどの製品を何時どれだけ必要かの需要によって決まり、需要が変動すればボトルネックは日々時々変化する。現場対応で経験的・感覚的に認識することではなくデータを測定しモニターすることでボトルネックを認識することがシステムとしての可能性が飛躍的に拡大する。

2.ボトルネックに同期化する。

ボトルネック以外の他のメンバーがどんなに早く進んでもハイキングスピードは一向に速くならない。むしろメンバー間の間隔が広がって、先頭から最後尾までの距離が長くなり先頭が通過してから最後尾のメンバーが通過するまでのリードタイムが長くなるだけである。一番遅いボトルネックの進行速度に合わせたリズムでドラムをたたき全員がそのリズムで進行することで、進行速度を同期化させる。

速度のバラツキによって広がる間隔に制限を持たせるために全員をロープでつなぐ。このロープが速度のバラツキのバッファーになって間隔の詰り状態が判断できる。弛んでいる場合は間隔が詰っており、張っている場合は間隔が広がっている状態である。ロープの長さはその間隔の広がりを制約する。先頭から最後尾までの広がりは全体のロープの長さで設計できる。DBR理論(ドラム・バッファー・ロープ)はボトルネックの行進へ同期化することで行進をコンパクトにマネジメントする手法である。

サプライチェーンでは供給業務のスピードを一番遅い業務に合わせて同期化、すなわちシンクロナイズすることで供給業務間に存在する在庫を少なく(間隔を短縮)して最初の工程からキャッシュとなる最後の工程までの時間を最小にする。筆者の「サプライチェーンマネジメント」を発行した工業調査会の新谷企画部長は学生時代ワンダーフォーゲル部の活動をしているときにボトルネックになるメンバーを先頭にもってきて、全メンバーがボトルネックにシンクロナイズ出来るようにしたそうだがその方法は一般的な常識だったそうだ。

3.ボトルネックの能力を上げる。

上記2つのステップでアンデーが通過してから最後のイバンが通過するまでのリードタイムは短縮され先頭から最後尾までの間隔は短縮される。すなわち在庫が減り、資材投入からキャッシュの入金までのリードタイムは短縮される。しかしながら、ハイキングのスピードが速くなるわけではない。そしてキャッシュの増大スピードが高くなるわけではない。

ボトルネックの能力を上げることでハイキングのスピードがあがり、キャッシュの増大スピードであるスループットが高くなるのである。ハイキングの場合はボトルネックとなるメンバーのリュックなどの負荷を軽くすることで全体の進行速度を上げることが出来る。サプライチェーン上のボトルネックは工場内のボトルネックか、資材調達先か、物流か、又は販売流通チャネル上のマネジメントの課題として対象となるかによって個別にボトルネックの能力を上げる対策を発案する必要がある。

ボトルネックの能力を上げると非ボトルネックのメンバーのスピードが上がり、全体のスピードがあがる。販売と言う供給業務を含むサプライチェーン全体の稼働率が上がるのでスループット、すなわちキャッシュフローのスピードが上がる。
このボトルネックの能力が上がることで全体のスピードが上がり稼働率が上がれば、非ボトルネックの中から別のボトルネックが発生する。そして1.のボトルネックの発見に戻り同じ手順を繰り返す。

このような手順を何回も繰り返すと最初はもたもたしていたハイキング行進は徐々にスピードを上げて整然とした行進になっていく。軍隊の儀礼行進のような美しい行進を見ると前後の間隔が短くてもかなりの早い速度で行進出来るように訓練出来る事を示している。

サプライチェーンでの同期化は情報システムを利用しながら同期するスピードを決めることと同時に、決められたスピードで供給業務を実行出来る為には熟練のスキルが要求される。トヨタ生産システムで当初量産立ち上げを流し生産といい、熟練による同期生産を流れ生産と言って、流し生産から流れ生産への移行によってリードタイム3分の1、コスト2分の1が経験的常識であったそうだ。行進のスピードが3倍速くなるのと同じである。

ここでコストが2分の1と言うのを解説しておく必要があろう。通常我々が原価、もしくはコストといっているものの中でオーバーヘッドとなる間接費の多くは人件費と減価償却費である。この二つの費用は基本的に時間の長さに比例して大きくなる。一方材料費などは時間とは関係なくコストは一定である。一定期間での産出量、スループットが大きくなると製品一単位当りの上記二つのコストが下がるのは人件費や減価償却費は期間コストであって物量コストではないからである。

すべてのコストが期間コストであればリードタイム3分の1はコスト3分の1になるが、原材料などの物量コストなどがあるから経験的に2分の1になると言うことであろう。TOCで利用されたハイキングのメタファーを使ってトヨタ式流れ生産の経験値も説明可能になる。

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