ROAによるキャッシュフロー経営のベンチマーキング

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SCMの可能性を求めて

第1章生き残りの手段としてのサプライチェーンマネジメント

ROAによるキャッシュフロー経営のベンチマーキング

なぜサプライチェーンマネジメントが生残り経営のベンチマーキング

前述したように企業を複雑系のモデルである生命体のメタファーで見ると血液の流れの健全性をROAが示しているからである。企業の寿命は30年との仮説の本がかつて日経から出版されたことがある。一つの企業が永続しない理由は産業変遷説、製品開発力の持続の困難性、世代交代説など様々ある。
サプライチェーンの立場から言えばどんな産業であろうとモノの流通が人間の生活に必要なのは普遍であり、必要とされる需要は限界があってもある規模の生産量を提供するビジネスはなくなることはない。限られた、或いは無くならないにしても減少する市場規模のシェアをどれだけ取れるかが生き残れるかどうかのビジネス戦争である。ビジネスのロジスティクス(兵站)であるサプライチェーンマネジメントは変動する需要に対して競争相手よりもどれだけ早いスピードで供給できるかによってキャッシュるフローを高める手法である。

図9
ここでROAについて更に考察を深めたい。〈図9.キャッシュフロー回転率としてのROA〉に示したように一般的なROAは会計上の期間利益である経常利益、又は営業利益の棚卸資産を含む総資産に対する比率である。一方、筆者がここで提示しているROAは利益の部分は売上から原材料、製造・物流経費を引いたサプライチェーンのキャッシュフローである。

会計的仕組みについて詳しくない殆どの読者にとって利益とキャッシュフローの概念がピンとこないのではないかと思う。果たして「儲け」とは何であろうか?原価計算や会計上の仕組みは厳密な理屈と原則で成り立っている。

ここで又理解を深める為にメタファー(比喩)を使うと、豆腐屋さんの大福帳での儲けは利益ではなくキャッシュフローである。豆腐は売れ残りを資産として大豆代金や職人の手当てとともに翌日に繰り越すことは無い。鮮度の要求される野菜や魚などの生鮮食料品なども同じであろう。ここで定義するキャッシュフローは売上から材料仕入と必要な経費を引く。利益は売上から製造費ではなく売上原価を引くのである。製造費から売上原価への変換は、製品在庫の繰越で在庫資産価値が普遍であるとの原則によって成り立っている。今在庫資産の価値が普遍であることの原則は失われているし、又在庫という付加価値を生まないで滞留している時間がキャッシュフローを生むまでのリードタイムを長くしている。したがって今必要なのは「豆腐屋さんの儲け」をスピードで見ることである。

最小の在庫で最大のキャッシュフローを上げることが生残りのために必要なのである。又このキャッシュフロー(売上-材料仕入-製造・物流経費)は生産と販売の同期化、即ち製販調整の指標でもある。即ち生産より販売が大きい時には在庫が減ってキャッシュフローが大きくなり、在庫がなく機会損失が発生するとキャッシュフローはそれ以上増えない。逆に販売より生産が大きい時には在庫が増えてキャッシュフローは減少、時にはマイナスになる。

図10
図10にROS(リターン・オン・セールス=売上営業利益率)とROA(リターン・オン・アセット=対在庫資産運営利益率)を、日本の代表的な3業種・9企業についての平成8年3月期の有価証券報告書の数字を使ってのベンチマーキングを示す。

ROSは一般的に使われる収益性指標である。100円売って3円儲ければ3%のROSである。ところが前述した理由で現在の高度に発達した会計システムによって「儲け」の概念がROSで表せなくなっている。製造業にしても、流通業にしても会計上の期間利益は在庫という価値不変の原則で処理され、時が経つと、様々な評価法で在庫資産を損益勘定に変換されることで真実に合うように修正されることになっている。ところがそこに人間の任意の意志が介在しどんなにデスクロージャーが騒がれても真実を反映しない。

在庫資産は最近騒がれている金融資産と同じでいつ不良債権になるか分からない。企業の生残り策が破綻するのはたいていの場合資産の焦げ付き、或いは経費の資産への変換が見かけの収益を生み続けることの出来なくなったときに発生する。

サプライチェーンマネジメントは企業が生残るために、このような在庫資産を最小にして「豆腐屋さんの儲け」を最大にしましょうというコンセプトである。従って図10にはROSとROAを対比してその違いを示した。ROSならそんなに高くないトヨタ自動車はROAが抜群に高い。又、ROSが高い業種の鉄鋼三社はROAが低い。ここで分かる興味深い事実は最終デマンドの動きにサプライを同期化させるためのサプライチェーンのリードタイムが長い上流産業と日々需要の変化に対応することを余儀なくされている産業との差も示していることである。さらに同じ業種であってもROAの格差も生じている。

図11
ROSよりROAが企業の経営体質に直結しているのは、ROAと事故資本比率の関係を見ても理解できる。図11の3業種9社についてのROAと自己資本比率の相関図を見ればROAが高い企業ほど自己資本比率が高く、ROAが低い会社ほど自己資本比率が低い傾向を示している。

自己資本比率とは会社の総資産の原資が対外的債務によるものではなく資本金でまかなっている比率である。自己資本比率の高い企業は財務的健全性の高い企業である。収益が累積されて資金繰りに苦労しない儲かっている企業である。ROAと自己資本比率との関係をもう少し考察すると、在庫を圧縮してキャッシュフローを高くすることは自己資本比率の計算の分母となる資産が少ないこと、従って資産の原資となる資本・債務が少なくて済み一定の資本に対して債務の比率が少ない事を示している。

ROAも自己資本比率も企業としての儲け、メイクマネーの高さの指標である。従来は収益性といえばROSのみが使われていたがこれらのベンチマーキングでその指標が疑わしいことを立証したと思っている。特に生残りのための収益性指標としてはあてにならないと言っても過言ではない。

それではROAの格差はどんな要因で生ずるのであろうか?

客先やサプライヤー、そしてアウトソーシング先などサプライチェーン上での利害関係者との受発注業務の仕組み、実需データ、需要予測や見込データの共有度・更新度合いがキャッシュフローのスピードや在庫を決定するのである。

サプライチェーンの上流も下流も今は在庫を下げてリードタイムを短縮するスピードが企業の生命力を強くする時代といってもよいであろう。その為の経営改善の障害となっているのが従来の右肩上がりの経済成長の続くインフレ時代の発想で効率化、生産性を向上してきた成長の時代のパラダイムである。

在庫資産で利益を調整する会計原則からも余りにも長時間慣れ親しんでいるためになかなか抜けきらないでいる。効率化や生産性という部分最適からスピード、キャッシュフローという全体最適への発想は特別に今始まった顕著な経営革新とも言えないのはJITやQR、ECRなどでも紹介した。自転車生産や卸問屋のような日本での身近な産業でも成功事例がある。ナショナル自転車工業と菱食である。

本稿を執筆している現在(1998年10月初旬)、筆者が監修者としてこれらのサプライチェーン経営の実例を含む企業研修用ビデオテープを日本経済新聞社から発売されようとしている。自転車という大衆者向けの商品での輸入自転車による価格破壊、卸問屋というメーカーと量販店との直取引によって存在を脅かされた企業の生残りの成功要因は情報技術をベースとした新しいサプライチェーンマネジメントのビジネスモデルであった。

今このサプライチェーンマネジメントが全世界の企業経営の新しいパラダイムとしてその可能が様々な機関で求められている。SCCの用語・コンセプトのインフラ作り、APSソフトウエアベンダー、そして殆どのコンサルタント会社が組織的に、そして個人的にその可能性を拡大するために日夜努力している。筆者も著作「サプライチェーンマネジメント」のまずまずの成功を受けて、多くの企業経営に鋭意努力されている方からの質問・課題の提供を受けてサプライチェーンマネジメントの可能性は日々進化を遂げつつある。

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