サプライチェーンマネジメントはキャッシュフロー経営である

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SCMの可能性を求めて

第1章生き残りの手段としてのサプライチェーンマネジメント

サプライチェーンマネジメントキャッシュフロー経営である

スループットは従来半導体業界においてウエハーの中に露光焼き付けした回路チップのうち品質検査でパスし「出荷できる産出量」として使われている用語であり、投入量にたいして歩止率を乗じたものである。サプライチェーンは販売までのオペレーションを含むので製品の産出量からキャッシュの産出量にまで概念を拡大しなくてはならない。また半導体業界においてのスループットはクリーンルームによるウエハー表面での「空間上の歩止」を上げることが課題だが、サプライチェーンマネジメントでは販売を含む出荷までのオペレーションの同期化で時間軸上でのリソースの有効活用によって「時間軸の歩止り」を上げることが課題である。

インベントリーはサプライチェーンに製品となる材料部品として投資されたキャッシュである。材料のままであろうが、加工された仕掛品・半製品や完成した製品であろうが製造経費を配分し付加価値を加えた原価として経費を棚卸資産に変換するだけでキャッシュにならない在庫の膨張はリードタイムを長くしスループットを落とす元凶である。
インベントリーは少ないほど良くスループットを左右する要因である。オペレーティングエックスペンスは原価会計では材料とともにコストになるものだがインベントリーとなっている材料をスループットに変換するキャッシュと定義する。

するとインベントリーをスループットに変換出来ない経費はサプライチェーン上で何にも役に立っていない経費であるともいえる。宣伝広告費はサプライチェーン上で販売という店頭在庫をキャッシュに変換する経費であり、輸送費は工場在庫となっている製品を店頭在庫というよりキャッシュに近い在庫に変換する経費として見る。
バリューチェーン、又は付加価値連鎖として製品の付加価値を上げる為に要したキャッシュがオペレーティングエックスペンスであると言える。

サプライチェーンマネジメントの主も目標はインベントリーを下げ最小のオペレーティングエックスペンスで最大のスループットを上げることである。経営指標としてはこれら3つの指標から1つのパラメータROA(リターン・オン・アッセト=在庫資産キャッシュフロー利益率)として定義することを提唱したい。

図8
〈図8.サプライチェーンマネジメントの経営指標〉に示した様に最終的な経営目標の指標に関連した幾つかの指標(インジケーター)が存在する。生命体の健康度を表す指標には血圧、肝機能指標としてのGTP、GOTなどの血中濃度など多くの指標があるようにサプライチェーンマネジメントにも上記の主要指標を測定できなくても診断可能な指標は幾つか選ぶことができる。契約納期に対する納期達成率、在庫充足分、時間当り産出量、在庫回転率、陳腐化率、設備稼働率、リードタイム、アイドルタイム、タッチタイム、プラニングサイクルタイム、物流費比率、・・・などである。これらの指標を改善するサプライチェーンマネジメント上のオペレーションを実行するリソースの制約(ボトルネック)をマネジメントし、制約となるリソースの速度に合わせた同期化(シンクロナイゼーション)でスピードを上げることが課題である。

詳しくは後述するがここではこれらの経営指標が従来の会計上にどのような改善効果をもたらすであろうか。
スループットを上げるサプライチェーンマネジメントはサプライチェーンの上で「仕入れる、加工する、仕上げる、稼働する、輸送する、販売する」などの付加価値を生むオペレーションの連続で最短時間でキャッシュフローを上げることを意味する。一定の会計期間で業績を表す会計指標でみるとスループットが向上することは販売までの物量が大きくなるから売上が増える。

勿論それだけ資材費も比例して増加するが、減価償却費や殆どの人件費は固定費であり、スピードが増えて一定期間での物量が増えれば原価は安くなる。だから販売価値と資材の仕入れ価格が一定であればサプライチェーンを流れるスピードが増大することになり、固定費となる多くのオーバーヘッドの負担を軽くする効果が現れてくる。従って従来の会計原則に従って計算しても営業利益が増大することは明らかである。また配分された経費を含む在庫資産は圧縮されてバランスシートの総資産は軽くなる。

総資産が圧縮されて自己資本を含む利益が増えることは自己資本比率が相乗効果で増大することを意味する。それにまた在庫が少ないということは陳腐化コストになる確立や原価にしめる陳腐化コスト率も抜本的に改善されるので原価はさらに低減されることになる。このようにサプライチェーンマネジメントキャッシュフローを重視したスピード経営であり、収益性・健全性など企業の財務体質を劇的に改善する可能性を秘めているのである。

サプライチェーンマネジメントは企業経営を生命体の血液循環のようにキャッシュの循環としてみる複雑系のパラダイムでも理解が深まる。例えば前に定義したROAはキャッシュフローの循環速度であり、血中の脂肪で血栓を作って血液の流れを損なうことのない健康体のバロメーターでもある。現金預金が沢山あってもROAの最悪の企業は血液バッグを沢山抱えた瀕死の病人で同じであろう。前述したようにサプライチェーンマネジメントの本質は今、無から生じたものではなくある意味では当り前の現場志向の問題解決策から生まれる考え方である。

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